“子は親に似る”ということわざがある。意味は親子というものは知らず知らずに似てしまうということ。このことわざは飼い主と愛犬に置き換えたとき、飼い主=親、飼い犬=子、という相関関係に代替できるのかもしれない。実際、街を歩いている飼い主と飼い犬を眺めていても、”なんとなく雰囲気が似ている”と思うことも少なくない。飼い主と飼い犬は、一緒に暮らすうちに似てくるのだろうか？

顔がとても似ているという評判を聞き、新宿区の赤城神社に程近いボタニカルショップ『小路苑』を訪ねてみた。足を運んでみるとオーナー吉田耕治さんと愛犬・コユキの関係性は、まるで実際の親子のようで、なるほど表情も似ている。吉田さんにそのあたりのことを聞いてみると「小さいころからブルテリアの犬種に似ているって言われていたんです。そんなことがあって無意識に犬を飼うならブルテリアと決めていたのかもしれません」。暮らしの中で知らず知らずに似たのではなく、そもそも似ている犬種を飼ったということだった。

2009年に英国の学術誌『Anthrozoos（アンスロズーズ）』に発表された関西学院大学の中島定彦教授の論文“犬と飼い主は顔が似ている“によると、飼い主は自分に似た犬を飼育しているのであって飼っているうちに似るのではないという実験結果が出たという。吉田さんの言葉は学術的にも実証されていた。

ただ、性格面では飼い主と飼い犬は似るという。静岡県にあるチロル動物病院の関茂雄獣医師にお伺いすると、アンスロズーズの論文を認めながら「飼育の仕方によって犬の行動は飼い主と似てくるんです。お昼寝の寝姿が似ていたり、仕草まで似ているなんてことも聞きますよ。ひとつ屋根の下で暮らしていれば夫婦が“似た者夫婦”と呼ばれるように、人と動物も似るんでしょうね」とのことだ。

飼い主と飼い犬の顔が似ていることについては世界各国で研究がなされていて、中島教授の”自分に似ている犬を選んで飼育している”というのは、諸説あるうちの一説。今回、はっきりと分かったことは表情も雰囲気も似ている吉田さんとコユキが、仲睦まじい父親と愛娘のようだったということぐらいだ。